次世代ADAS戦略と競合動向調査
目次
次世代ADAS戦略と競合動向調査 #
本記事では、ホンダが発表した次世代ADAS(高度運転支援システム)戦略に対し、主要競合プレイヤーの動向を整理し、これまで採用してきたMobileye技術をE2E自動運転世代で用いなかった背景を推察します。
1. 主要競合プレイヤー #
1.1 OEM垂直統合型 #
テスラ(FSD v12/HW4)
- 全車カメラ入力を単一のニューラルネットワークで処理し、操舵や加減速を制御
- 高速道路や市街地での実用化を進め、OTAによるモデル更新を頻繁に実施
XPeng(小鹏汽車)
- 視覚ニューラルネットワークと大規模言語モデルを組み合わせるハイブリッド方式
- 中国全域で都市部NOA(ナビゲート・オン・オートパイロット)を展開
Li Auto(理想汽車)
- E2Eモデルとビジョン・ランゲージ・モデルを組み合わせたデュアルアーキテクチャ
- HEVでも動作可能なNOAを提供
1.2 AI/Tier1パッケージ型 #
Wayve(英)
- 自動運転専用のデータ駆動「Embodied AI Driver」を提供
- 日産自動車の次世代ProPILOTに採用予定
Huawei
- 地図依存を減らす「ADS 2.0/3.0」を展開
- 高精度地図不要で全国都市部NOAを実現
Horizon Robotics
- 10~560 TOPS可変の専用SoC「Journey」を中心にSuperDriveを提供
- 中国主要OEMへ外販し、100車種以上で採用
Mobileye
- EyeQシステムとルールベース層を組み合わせたSuperVisionを中心に展開
- 従来型ADASでは高い実績を誇るが、純粋E2E型においては限定的に利用
1.3 汎用チッププラットフォーム型 #
NVIDIA DRIVE
- 高性能SoC「Thor/Hyperion」で2000TOPS級の演算能力を提供
- メルセデスやボルボなど高級車メーカーに採用
Qualcomm Snapdragon Ride
- ADASと車載情報機器を1チップで統合可能な高効率プラットフォーム
- BMWやGMなど幅広いOEMに対応
2. ホンダの競争軸と戦略ポイント #
- 省電力かつ高効率な演算:HEVや小型車での搭載を前提に、チップの演算性能と消費電力の最適化が必須
- OTAによる迅速な更新:E2E自動運転モデルはデータ量が勝負。頻繁なソフト更新基盤が競争力を左右する
- 地図依存の低減:高精度地図なしで市街地NOAを実現する汎用性が求められる
3. MobileyeをE2E世代で採用しなかった推察理由 #
アーキテクチャ思想の差異
Mobileyeは従来のモジュラー+ルールベース手法を重視し、純粋E2Eアーキテクチャへの移行に慎重だったデータ主権の確保
OEMが自社で学習サイクルを回し、データを蓄積・活用することを重視するホンダの戦略と合致しにくい電力・熱設計の自由度
固定された消費電力枠での動作設計が多いMobileyeチップに対し、ホンダは独自SoC+車両冷却システムで対応したい狙いライセンスコストとロイヤリティ
長期的な車両販売目標を考慮すると、チップ+ソフト一体型のロイヤリティ負担が増大する可能性将来機能との整合性
段階的なレベルアップ(L2+からL3眼離しへ)を見据えた拡張性と統合ロードマップの柔軟性を重視サプライチェーン多様化
TSMC依存など地政学リスク回避の観点から、ベンダーロックインを避ける意図
4. 結論 #
ホンダの次世代ADAS戦略は、低消費電力で高性能を追求する「E2E×NOA」の自前開発に舵を切ることで、テスラや中国勢、AIスタートアップなどの垂直統合型・外販型ソリューションと差別化を図るものです。Mobileyeを採用しない背景には、純粋E2E思想やデータ主権、コスト・拡張性の観点からホンダ自身の開発・運用方針と整合しない点が多く含まれていると推察されます。今後、HEVや小型車への展開も視野に入れた低消費電力E2Eアーキテクチャの実現が、ホンダの競争力向上の鍵となるでしょう。